Monday, August 4, 2014

医者である父のことが大嫌いだったのに、どうして私は医学科に進んだのだろう。

先日、宮崎にある大型リゾート施設「シーガイア」のオーシャンドームの解体が決まったというニュースが流れました。

シーガイアにあるシェラトン・グランデ・オーシャンリゾート。
Attributed to Tremblay.typea, under the license of CC 3.0.

このシーガイアは2000年にサミットが行われたことでも有名で、隣接するオーシャンドームは人工的に創りだされた波でサーフィンを楽しむことも出来るかなり大規模なものでした。

オーシャンドーム。
桃太郎電鉄プレイヤーには宮崎のシードームとしてお馴染み。

さて、どうしてこのニュースに目が止まったのかというと、このシーガイアは私が生まれて初めて家族旅行で行った思い出の地だったからです。

これだけ聞くとなんだか素敵な思い出のように聞こえますが、今でも思い出すと悲しくなる、しかし確かに私が医者を目指すきっかけになった自分の中では大切な出来事でした。

私の父は肝胆膵外科医で、物心ついた時から一緒に遊んだことはおろか家にいるところを見たこともありませんでした。

私達が眠りについてから家に帰ってきて、夜中に病棟から呼び出されていて朝起きたらもういない。

今だからそのような仕事だと理解もできますが、当時は自分たちと母親を家に残して帰ってこない父親に、子供ながらに怒りにも悲しみにも似た気持ちを抱いていたことを覚えています。

そんな中、私が小学5年生だった時、父親が初の有給休暇を取得してくれて生まれて初めて家族旅行に行けることになりました。

いつも仕事で全然帰ってこない父親と初めての旅行、しかも行き先はあの波の出るプールで有名なシーガイア!!車で宮崎に向かう道中、後部座席では私を含め兄弟で大騒ぎです。

そんな中、車がようやく関門海峡に差し掛かろうとするところで一本の電話が掛かってきます。それは病棟からの緊急呼び出しコールでした。父の担当患者さんの容態が悪化したのですぐに帰ってきてほしいとのこと。

迷うことなく踵を返した父に、子供たちは号泣、非難の嵐でした。

「パパの嘘付き〜!!」

「パパなんて死んでしまえ〜!!!」

車内に溢れかえる父親への呪いの言葉、結局生まれて初めての家族旅行は始まる前に最悪の形で幕を閉じたのでした。

翌朝、気が付くと家のベッドで横になっていました。どうやら泣きつかれた私達を父親が車から運んでくれたようでした。

ふと昨日何があったかを思い出してしまい、自然と涙が溢れてきました。(あんなにみんな楽しみにしていたのに、パパはなんというひとでなしなんだろう…!!)そう思いながら一人でさめざめと泣いていたところ、突然部屋に父親が入ってきました。

「ちょっときてくれや」(父は当時から非常に強烈な広島弁を話していました)

あんなことがあったばかりだったので私は父に背を向け無視を決め込んでいました。しかしそんな様子はお構いなしにと父は私に話しかけ続けます。

「お願いじゃけえ、ちょっときてくれぇや」

父が私に何かを頼むことなどそれまでの人生でありえなかったので、これには私もちょっとびっくりしてしまいました。結局その場は私が折れ、父連れられるがまま車に乗り込みました。終始無言の気まずい30分の後、着いたのは父が勤務している病院でした。

通された病室には白衣をまとった父、ベッドの上で横になっている女性とそのご家族がいました。彼女は末期がんの患者さんで、ご家族と父に見守られながら静かに息を引き取りました。

ほどなくして、患者さんの息子さんが父に話し掛け始めました。

「先生、本当にどうもありがとうございました。先生はどんなに夜遅く、朝早くでも呼び出しがあったらすぐに母のところに駆けつけてくださいました。先生が主治医でいてくれて母も天国で喜んでいると思います」

この言葉を傍らで聞いていた私は、それまで自分がなんて浅はかだったのだろうかと恥ずかしくなりました。

父のことを史上最悪の人間、こんなダメな父親もそうはいまいと思っていたけれど、自分たちの知らないところで父がこのように人のために働いていたなんて…。

この日を境に、自分も父と同じように人のために働く人生を送ろうと医者を目指すようになったのでした。

その後、英語の勉強をしているうちに英文法にのめり込み過ぎて文法学者か英語教師になろうかと思ったことも何度かありましたが、結局あの時の気持ちを忘れることができず私は医学科に進学し来年にも医者になろうとしています。

もちろん歳を取るに連れて心も汚れてしまい、あの頃の自分に胸を張ってもうすぐ医者になるよと伝えることはできそうにありませんが、それでも実習などで患者さんを診ているとやはり自分の根底には病気に苦しむ患者さんのために働きたいという気持ちがあるのだなと再確認させられます。

別に記事にして誰かが特をすることなんて何もなかったのですが、将来迷ってしまった時にも自分の原点として立ち返ることができるように、医者になる前に書き留めておきました。

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