Wednesday, December 28, 2011

クラシック入門第1回「ラ・カンパネラ」

はぁ〜い、みなさん。

クラシック音楽に興味はあるけど、何から聴き始めればいいのか分からない…そんな友人の声を受け、今までクラシックを全く聞いたことのない人でも気軽に楽しめるようになる、そんな内容を目指してちょっとした連載記事を書くことにしましたよ。

題して「クラシック入門」

これさえ読めば、自然とクラシックが楽しめる、クラシックに関連する知識も身につく、彼女と一緒にクラシックコンサートなんていうシャレオツなデートを決め込む、そして最終的にぼくのように「サミュエル・バーバーのピアノソナタ第四楽章のフーガっていいよね!!ぐへへへへ!!!」などと言って教室中をドン引きさせることができるようになること請け合いです。

太字で書かれているところをなんとな〜く覚えていったら、そこはかとなくクラシック通な雰囲気が醸し出せるようになるかと思います。デートでインテリを気取りたい時にはもってこいですね!


記念すべき第1回はフランツ・リスト作曲の「ラ・カンパネラ」。早速曲を聴いてみましょう。


どうでしょうか。とりあえず「なんかスゴイ」ということだけは感じてもらえたかと思います。この曲についての説明をする前に、まずは作曲したフランツ・リストについてちょっとお話ししましょう。


(図1)フランツ・リスト(Franz Liszt)
フランツ・リスト(図1)はハンガリー生まれのピアニスト兼作曲家で、かの有名なフレデリック・ショパンと同じ19世紀にドイツ、オーストリア、フランスなどで活躍しました。「標題音楽に交響詩なるジャンルを確立した」、「ピアニズムの発展に貢献した」等々様々な小難しい説明がなされていますが、端的に説明すると「現代に至るまでその後のピアニストたちを苦しめる超難曲を作曲しまくった極めて迷惑な男」と言えましょう。

幼い頃からピアノの才能を示し、10歳になる前から演奏会を開いていたリストでしたが、超絶技巧にこだわるようになったのは彼が20歳の時、余りのヴァイオリンの腕前に悪魔に魂を売ったと噂され、死後教会に埋葬を拒否された程のヴァイオリニスト、ニコロ・パガニーニの演奏がきっかけでした。彼の演奏を聞き終わるやいなやリストは「ぼくもピアノのパガニーニになる!!」と叫び、その後数々のピアニスト泣かせの難曲を作曲することに奔走することになるのです。

リストの迷惑行為、もとい作曲・演奏活動はその後ピアニストたちを更なる絶望へと突き落とすことになるのですが、それはまた別の機会にお話ししましょう。




さて、「ピアノのパガニーニになる」と宣言したリスト青年は、1日に14時間とも言われるピアノ練習により狂ったように技巧を磨き上げ、パガニーニのヴァイオリン協奏曲から主題を拝借し「パガニーニの『鐘』によるブラヴーラ風大幻想曲」(図2)を作曲します。

(図2)楽譜が真っ黒クロスケみたいに真っ黒だね。

しかし、この曲は現代でも「演奏不可能」というレッテルを貼られるほどの難しさを誇り、加えて音楽的にも冗長な部分がやや多いという、今で言うところの中二病的な作品なのでした。

それらの黒歴史問題を解消すべく、リストはこの曲を改訂し「パガニーニの主題による超絶技巧練習曲」(以後第2稿)の第3番として発表しますが、これまた後々、20世紀の天才ピアニスト、ウラディミール・ホロヴィッツにすら「演奏不可能」と言わしめる程の難易度だったため、結局さらなる改訂を経て「パガニーニの主題による大練習曲」(以後第3稿)の第3番として今日知られる「ラ・カンパネラ」となったというわけです。



第2稿から、技術的にというよりも物理的に演奏困難な部分を削り、かつ音楽的に洗練させた第3稿でしたが、第3番「ラ・カンパネラ」に限って言うと、第2稿にはなかった「異常な跳躍」という新しい要素が加わり、それはそれで難しくなっています。

冒頭の動画を見てもらえば分かる通り、この曲は最初から最後までいたるところで音と音の間が異常に離れており、両手が影分身のように動き回ります。加えて解剖学的に最も弱い小指を執拗に酷使するため一筋縄では行きません。このドS野郎!!

しかし、第3稿は単に難しいだけでなく、音楽的な美しさも兼ね備えており、それがこの曲を現代においても人気のクラシック曲のひとつにしている所以なのでしょう。

リストの若いころの作品にはただ単に難しいだけのものが沢山ありましたが、壮年期の作品は過度な技巧の誇張を削ぎ落した、音楽的に洗練されたものが多く、「ラ・カンパネラ」はその代表例と言えます。

「カンパネラ」とはイタリア語の「鐘」であることから分かる通り、この曲は鐘の音をモチーフにしています。冒頭部、鐘の音の掛け合いから始まるこの曲は、鐘の音を思わせる2つのテーマが次々と形を変えながら息もつかせぬまま最後まで駆け抜けるという構造をとっています。見ても聴いても楽しめる、クラシック音楽の傑作のひとつです。



(図3)わお、モデルのようだ。
リストは当時のスーパーアイドル(図3)で、リストが通ればパリの道は追っかけの貴婦人の馬車で渋滞、リサイタルでは演奏に感動したファンの女性が失神、リストが止まったホテルのバスタブのお湯を飲んだり煙草の吸殻を集める女性がいる等々数々の伝説を残しています。そして当のリスト自身も演奏中に頭を振り乱す、足を鳴らす、感極まって叫ぶとまさにロックミュージシャンのようでした。

ぼくたちは「クラシック音楽」と聞くと少し身構えてしまいますが、当時の人にとってリストの演奏は「ロック」だったのですから、まずはなんとなく「カッコいい」からクラシックを聴き始めてみる、そういう付き合い方でもいいかもしれませんね。



今回紹介した「ラ・カンパネラ」が収録されているおすすめのCDを紹介します。

 

演奏者は冒頭の動画でも演奏している、2000年に若手音楽家最大の登竜門である第14回ショパン・コンクールで優勝したユンディ・リです。「ラ・カンパネラ」に関しては彼の演奏が技術・解釈とも他を圧倒しているといっても過言ではありません。他にも有名な「愛の夢第3番」、リストの代表曲のひとつである「ソナタロ短調」なども収録されているので、リスト入門として、そしてユンディ・リ入門としてぴったりなCDだと思いますよ。


さて、クラシック入門第1回「ラ・カンパネラ」いかがでしたか。いざ書いてみるとだんだんとテンションが上がってきて予想以上に量が増えてしまいましたが、楽しんでもらえたでしょうか。

次回はマンガ「のだめカンタービレ」でのだめが「今日の料理」のテーマを思い出して演奏中ど忘れしてしまったイゴーリ・ストラヴィンスキー作曲「ペトルーシュカからの3楽章」を紹介したいと思います。

それでは、すてい・ちゅ〜んど!

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